First collection
平安時代、宮中の膳や神前の祭壇にひそやかに置かれていた素焼きの器「瓦笥(かはらけ)」。釉薬を施さずに土の肌をそのまま見せるこの器は、日常と神事の間に在る器として平安時代の宮中や神事の場に静かに佇んでいました。『源氏物語』をはじめとする古典文学にもその名を留め、平安貴族の食卓における静かな気配として、また神を迎える祭祀の具として、人と神の間を取り持つ象徴的な存在でありました。特に平安時代において瓦笥は、御神酒を捧げる盃や三方の上に神饌を供える器として用いられており、素焼きという素材の選択にも、余計な美飾を廃してただ清らかさのみを際立たせる思想が宿っています。その瓦笥に着想を得て、現代の生活空間と美意識に合わせて生まれ変わらせたセラミックアートとなっています。磁器の持つ繊細で美しい輝き、澄み切った白、そして彫刻的・構築的な意匠。それに日本の伝統美を掛け合わせ、ほのかに王朝の香りが漂う現代の瓦笥として再解釈しました。
手掛けるのは、350年の歴史をもつ大堀相馬焼を継承しながら、研ぎ澄まされた造形感覚でモダンな器のあり方を提示する陶芸家・近藤賢。
彼の手によって生み出されたこのシリーズは、平安の神聖性と現代の意匠が静かに交差する場となり、彼の手によって生まれた器たちは王朝の香りをほのかに漂わせつつも、造形は極めてモダンに、空間に溶け込みながら静かな存在感を放ちます。使うたびに“過去と今”とが静かに交差する体験を生み出す。単なる再現ではなく、“生ける古典”としての器の再創造であり、精神性と造形の両極を極めた、現代のラグジュアリーのかたち。神聖と日常の境界に生まれた器を私たちの生活の中に蘇らせ、過去の美を継承しながら現代に息づかせるという選択がこのシリーズのコンセプトとなっています。